修繕積立金

修繕積立金とは、主に分譲マンションなどで共用部分の大規模改修のために積み立てておく費用のことです。

修繕積立金の意義

マンションなどでは管理費を将来の修繕のためにプールしておくことがありますが、少額であることが多く、大規模な修繕を行う際には一時分担金を徴収するのが一般的となっています。

しかし、必要に迫られて急に修繕費用を募るのは現実的でなく、特に住宅ローンの返済に追われている区分所有者にとっては、負担が重くのしかかることになります。そもそも、物件が経年劣化を起こすのは避けられないことですので、将来の修繕の必要性は事前に予測できることです。

そこで、マンションの管理組合が、物件に将来起こりうる不備や欠陥をある程度予測し、数十年間の単位で少しずつ修繕積立金を集めておくことが重要となります。

なお、修繕積立金に「いくらぐらいならOK」というような金額の相場はなく、長期修繕計画との比較によって決まります。

不動産投資における支出には、管理コストや税金など毎年経常的に発生する支出と、修繕費などのように数年に一度、臨時に発生する支出の2つがあります。修繕費に関しては、かつては賃借人が入居する際に預かる敷金を原状回復費用として、入居者が入れ替わる際に修繕費にあてることが多かったようですが、原状回復の定義と費用負担をめぐり、賃借人とのトラブルが頻発したため、1998年に国土交通省が原状回復費用負担についてのガイドラインを作成しました。さらに、東京都では2004年に「賃貸住宅紛争防止条例」を施行し、借主が通常使用する上での損耗は家賃に含まれているとされ、特別な約束がない限りは貸主が負担することがいっそう明確となりました。

このように明確なガイドラインが示されたことから、特に賃貸住宅に投資した場合には、入居者が入れ替わる度に、必ず修繕費用の負担が発生すると考えなくてはならないのです。
また、室内に設置してある冷暖房機器や給湯器具などは、一般的に10年から15年で寿命を迎えるとされているため、その周期で交換していく必要があります。このような設備の交換に要する費用も、貸主である投資家の負担となることはいうまでもないでしょう。

建物は年を追うごとに老朽化するため、必ず修繕が必要となります。数年から十数年に一度の支出ではありますが、建物を保有する限り必然的に発生するコストと考えなければなりません。
不動産投資をする場合、総投資金額に対して家賃収入から毎年発生するコストを差し引いた実質の利回りにどうしても目がいってしまいがちで、中長期的に発生する修繕費などを考慮していないケースが多くあります。

修繕費用や退去時のリフォーム費用などは、時期や金額の予想がつきにくい点が難しいところで、こうした費用を加味すると、実際の利回りはぐっと低くなります。だからといって、むやみに家賃や管理費を値上げすると借り手が見つからなくなるということもありますので、注意しなければなりません。特に中古物件に投資する際は専門家に相談し、短期的に発生する修繕費などを考慮して、入ってくるお金と出ていくお金をシミュレーションし、収支計画を作っておくのが得策といえるでしょう。

修繕積立金の積み立て方法

修繕積立金の積み立て方は、大きく分けて2種類あります。積立期間中、一定期間ごとに同じ額ずつを積み立てていく「均等積立方式」と、当初の積立額を抑えて、修繕時期が近づいていくにつれて段階的に引き上げていく「段階増額積立方式」です。

段階増額積立方式は、修繕の必要性がまだ遠い将来にある時期には、少額の積み立てで済むため合理的です。しかし、いつ、どのくらいの割合で積立額を引き上げるのか、マンションの住人同士で総意をとるのが難しく、決定に従わない住人が積み立てを拒否して、結局十分な積み立てができないという事態が生じがちです。そこで、安定的に積み立てを行うためには、均等積立方式が望ましいとされています。

また、普段から積み立てておく方式と、修繕のタイミングで一時金を集めることを併用する場合もあります。
いずれにしても、マンションの購入予定者に対しては、修繕積立金の積み立て方式について、マンションの所有者や管理者は、事前に十分な説明をしておかなければなりません。住宅ローン返済と管理費の支払いしか意識していない購入者も少なくないからです。

修繕積立金は、マンション居住者で分配できるか?

毎年、修繕積立金を集めたものの、実際には積み立てすぎて、数十年に一度の大修繕に使っても余ってしまうことも考えられます。そのようなとき、修繕積立金の一部を取り崩し、居住年数に応じてマンションの各戸の所有者に分配する決議をしたとしましょう。そのマンション管理組合の決議は、法的に有効となるのでしょうか。

福岡高等裁判所小倉支部2016年1月18日判決は、マンションの共用部分を修繕する目的で集められる修繕積立金は、各戸の区分所有権と不可分のものであって、各戸の専有面積に応じて分割するならまだしも、居住期間に応じて分割することは、それぞれの所有者のあいだで不合理な差が生じてしまうため、決議は公序良俗に反して無効であると判断しています。

注意したいのは、この判決では「修繕積立金を取り崩して区分所有者に配分すること自体が可能であるとしても」と述べているところです。修繕積立金を分配することが無効だというわけではなく、分配の仕方に問題があったのです。
修繕積立金によって修繕するのが、外壁や廊下などの共用部分であることから、区分所有者の共用部分に対する持ち分に応じて分配しなければ不合理だというのです。それぞれの区分所有者が、共用部分に対して及ぼす持ち分は、専有部分(自室)の床面積の割合に応じています(建物の区分所有等に関する法律14条1項)ので、修繕積立金を取り崩して分配するときも、専有部分の面積が広いほど高額にしなければ不公平だというのです。

なお、国土交通省が発表している「マンション標準管理規約(単棟型)」というガイドラインによれば、管理組合は、積み立てた修繕積立金を、次のような特別の管理に要する経費にあてる場合に限って、優先順位を守りながら取り崩すことができるとしています。

1. 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
2. 不測の事故その他、特別の事由により必要となる修繕
3. 敷地や共用部分などの変更
4. 建物の建て替えにかかる合意形成に必要となる事項の調査
5. 敷地や共用部分などの管理に関して、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理

以上はガイドラインなので法的拘束力はありませんが、国土交通省としては、まず敷地や共用部分の管理に修繕積立金をあてることが優先されるべきだと考えているようです。

しかし、修繕積立金は区分所有権法などの法律で義務付けられているものでもありませんし、徴収するもしないも、管理組合の自由な判断に委ねられているため、管理組合の判断で処分することも自由だと考えられます。しかし、専用部分の面積に応じた分配でなければ、住民間で利害の釣り合いが取れないとして、それ以外の分配方法を裁判所は無効と判断したのです。
つまり、専用部分の所有権を他人に譲渡することは、それまで管理組合に預けてきた修繕積立金の権利もまるごと譲渡されると考えるべきでしょう。このため、前所有者が負担してきた修繕積立金に対する価値を加味して、マンション専用部分の売買代金を設定する取引きもありえます。