NPV(正味現在価値)
NPVとは、「Net Present Value」の略で、投資判断方法のひとつです。「正味現在価値」や「純現在価値」とも呼ばれます。不動産が生み出す将来的なキャッシュフローを現在価値に割り戻した上で、資産を取得するときに支払った金額を差し引いたものです。
投資において、今もらう100万円と、1年後にもらう100万円は価値が異なります。なぜなら、今100万円をもらって年利5%の投資を行えば、1年後には105万円になるからです。
NPVは、このような時間的価値の概念を取り入れた計算式で、「今の価値」に対して「将来的な価値」はプラスになるのかマイナスになるのかを知ることができます。
つまり、今現在で手元に所持している100万円を運用して、1年後には105万円になるにしても、そのために50,000円のコストを投じることになる場合は、現在の価値に引き直して考えた場合、価値は増えていないといえるため、NPVはゼロとなるのです。
ここでいう、将来的な利益を得るために投じるべきコストを「資本コスト」といいます。不動産投資の場合は、不動産を取得するための初期投資を金融機関からの融資でまかなうことがありますが、その場合は借入金利が資本コストとなります。
例えば、融資によって取得した1億円の不動産を運用して、1年後に5%増となる500万円の利益が得られるとしても、最初の融資を年利7%で借りた場合は、資金の流出が上回り、NPVはマイナスとなります。一方で、年利3%で借りていれば、資金の流入のほうが上回るため、NPVはプラスです。
もちろん、一般的な投資事業は、NPVがプラスとなるものを選んで進めていくことになります。
ただし、その企業にとって存立の基盤である注力分野・核心分野ともいえる内容であれば、投資すること自体が社会的なイメージを維持し、将来的なブランディングを確保することにもつながります。そのため、たとえNPVがマイナスであっても、独自の経営判断で戦略的に投資を行うべき場面があります。
また、投資対象の候補が複数あって、すべてに投資するわけにはいかず、一部への投資を余儀なくされる場合は、NPVの高い順に投資するのが常道とされています。
NPVの算出式
計算式は以下のとおりです。 NPV=n年目のキャッシュフロー÷(1+割引率)×n乗-投資額 このNPVの値が大きいほど投資する価値があり、逆にマイナスになれば投資向きではないと考えます。なお、NPVの計算におけるキャッシュフローは、支払利息を控除していません。また、計算対象となるキャッシュフローは、投資によって得られた収益となります。
また、投資の経済性を計算する上で求めるべき、年ごとのキャッシュフローを「フリーキャッシュフロー」といい、その求め方は以下のとおりです。
フリーキャッシュフロー=営業利益(税引き後)+減価償却費等-設備投資額-運転資本増加額
このフリーキャッシュフローを求める際は、次のポイントをしっかり把握しておきましょう。
- ・売上高などの営業収入
- ・入居者獲得などの営業にかかる費用
- ・運転資本の増減(売上債権など)
- ・法人税の有無と税率
NPVの具体的計算
NPVを求める計算プロセスにおいては、「フリーキャッシュフローを求める計算プロセス」と「現在価値に割り引く計算プロセス」のふたつに区分します。仮に1億円のマンションを購入して、毎年1,000万円の家賃収入を得て、5年目の終わりに8,000万円で売却したとしましょう。この際の割引率が5%だった場合は、以下のような計算が成り立ちます。
{1,000万円÷1.05+1,000万円÷1.05^2+1,000万円÷1.05^3+1,000万円÷1.05^4+(1,000万円+8,000万円)÷1.05^5}-1億円=約598万円
※「^」は乗数を表します(2年目以降は複利計算)。
NPVがプラスとなったので、この物件は投資向きの不動産ということがわかります。
NPVのデメリット
一方、NPVのデメリットとして「割引率の設定が難しい」という点が挙げられます。仮に上記の式の割引率を10%に設定した場合はマイナス約1,242万円となり、投資に不向きの物件となります。
このように、数値(割引率)が変化することで投資の向き不向きが大きく変わってしまうのがNPVの危険なところといえるでしょう。
この点、IRR法であれば、割引率の設定は不要ですので、NPVに伴う悩みはひとつ解消されることになります(ただし、IRR法にもデメリットはあります)。
なお、NPVは中長期的な投資よりも、短期的な投資で利潤を得ようとする姿勢を助長するものと批判されることもあります。これはNPVという指標の性質上、当然といえるでしょう。会社の将来的ビジョンを達成する、事業主のライフワークのような長期的事業よりも、すぐに儲かる事業のほうがNPVは高く現れやすくなります。これはNPVの弱点としてとらえるより、「そういうものである」という認識を前提にしておくほうが生産的です。
さらに、NPVは投資前の判断ないし意思決定には一定以上の効力を発揮しますが、投資が実際に始まり、進行すればするほど形骸化しがちであるという特徴もあります。 投資前の時点では正味現在価値を意味するNPVも、いったん投資が始まってしまえば、「投資前の(過去の)価値」を意味する指標でしかありません。つまり、投資進行中の目標達成管理には不向きな指標といえます。
NPVが投資の前段階において優れた指標であることは確かですが、決して万能の指標とはいえません。適宜、IRR法や「回収期間法(ペイバック法)」など、ほかの指標も組み合わせながら投資を検討していくといいでしょう。
とはいえ、これらの指標も、投資の将来性を一義的に見極められるわけではありません。指標である以上は、時間経過による不確定要素を切り捨てて単純化しているのとほぼ同義なのです。NPVなどの指標は、あくまで投資の将来性を単純化させ、複雑にうごめく現実を数値上でシミュレーションしているに過ぎないことを自覚しておかなければなりません。
NPVの応用(新規設備投資の判断)
例えば、新たな機械や装置を導入して、所有する不動産の収益性を向上させようと考えたとします。
しかし、やみくもに新規設備に投資すると収益バランスが崩れ、中長期的に損失を被るリスクがあります。特に有利子で融資を受けて設備投資するときは、NPVを算出して将来を見据えた判断を慎重に行うことが求められます。
そこで、新たな機械や設備を導入することによって生じる収入や支出を、損益計算書の形式でまとめます。まずは、その機械設備の減価償却期間の経過に応じて、売上高や現金支出費用などがどのように推移するかをシミュレーションしましょう。そして、減価償却期間の経過後に、その機械設備を売却すると仮定し、特別利益(設備の売却収入-減価償却期間終了時点での設備の残存価額)も算出しておきます。
続いて、「営業」「投資」の両面からキャッシュフロー計算書を作成し、「フリーキャッシュフロー」を求めることで、NPVを算出できるようになります。なお、運転資本の増減については、売上債権・資材在庫・仕入債務を、減価償却期間の年ごとに算出し、図表にしておくと良いでしょう。
NPVの応用(取替え投資の判断)
「取替え投資」とは、今まで使ってきた設備が老朽化したとき、古くなった現有設備を廃棄、あるいは売却して、新たな物に交換する設備投資のことをいいます。
このとき、NPVは、現有設備の取替えを行うべきかどうかの意思決定を判断する指標となります。現有設備で得られるキャッシュフローに比べて、新規設備のキャッシュフローはどれだけ増加するか、その差額を計算するのです。
取替え投資の適否を検討する場合、以下の3つの額を個別に算出した上で、NPVを導き出します。
・投資額(新設備の原価と付随する費用に運転資本の変化を加えたものから旧設備の売却収入と税効果を減じる)
・毎年のキャッシュフローの割引額
・設備の処分額(新設備売却時の収入とその税効果)
なお、計算にあたっては取替え投資の実態も考慮しておく必要があります。現有設備が十分に稼働できる状況であれば、新規設備に取り替えた場合との差額キャッシュフローを計算すれば良いのですが、現有設備が耐用年数を経過して稼働できない状況であれば、その取替え投資は事実上の新規設備投資と同視できるからです。