譲渡所得税
「譲渡所得税」とは、土地や建物、株式、ゴルフ会員権などを売却した際に、売り主が得た譲渡所得
に対して課される税のことです。不動産投資をする方は、「不動産譲渡の売却金にかかる所得税
」と認識しておけば十分です(ただし、不動産でも山林の売却金に対しては「山林所得税」として、別扱いとなります)。
なお、会社員の給料に課す「給与所得税」や、ビジネスによって得られた所得に課す「事業所得税」、不動産投資をしている場合の賃料所得に課す「不動産所得税」など、ほかにも所得税には種類があります。
通常、給与所得や一時所得などにかかる所得税は、各所得の合計金額に税を課す「総合課税方式」となっています。一方、土地・建物などの譲渡による譲渡所得税については、ほかの所得と別に計算する「分離課税方式」が採用されています。
長期譲渡所得と短期譲渡所得
土地や建物の譲渡による所得は、給与所得や事業所得
などと混ぜずに、独立した項目として確定申告
をしなければなりません。すなわち、分離して課税する分離課税制度が採用されているのです。
そして、課税額は譲渡所得を得た不動産を、売り手が譲渡前にどれだけ保有していたかによって変動します。譲渡した年の1月1日時点で、その不動産の所有期間が5年超のものを「長期譲渡所得」といい、保有期間が5年以下のものを「短期譲渡所得」といいます。それぞれ、所得税の額は次のように計算します。
- ・長期譲渡所得の場合の所得税=課税対象の長期譲渡所得金額×15%
- ・短期譲渡所得の場合の所得税=課税対象の短期譲渡所得金額×30%
すなわち、長期的に保有していた不動産の売却益に課される所得税は、短期的保有のそれに比べて、半額に抑えられることになります。また、所有期間が10年を超えた自宅(居住用財産)を売却し、課税長期譲渡所得が6,000万円以下の場合、譲渡所得の税率が10%に下がることも覚えておきましょう。
譲渡所得税の計算方法
課税対象となる譲渡所得の額は、次の式で算定されます。
- ・譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
「所得=収入-費用」という基礎を踏まえつつも、譲渡所得税特有の「特別控除額」が設定されている点が特徴です。
ここでいう「収入金額」とは、土地や建物の譲渡によって、売り主が得た売却金のことです。
「取得費」は、譲渡した土地や建物の購入時に支払った代金のほか、譲渡した不動産を手に入れた当時、取得や価値増加のために使った幅広い費用が含まれます。不動産移転登記に要した「登録免許税」と「不動産所得税その他の税金」、建物の場合は「建築に使った費用」、賃貸物件だった場合の借り主を立ち退かせるために支払った「保証金(立退料)」、ほかにも「土地の造成や測量に要した費用」などが「取得費」にあたります。譲渡所得税を抑えるには、取得費の領収書など証拠書面を忘れずに保管しておく必要があります。
「譲渡費用」は、その土地や建物を譲渡するために使った費用のことです。例えば、不動産仲介会社に支払った「仲介手数料」、賃貸物件としていた場合に、借り主を立ち退かせるために支払った「立退料」などが含まれます。
「特別控除額」は、投資という性格が薄かったり、やむを得ない原因などで譲渡せざるを得なかった事情があったりする場合に、課税対象となる譲渡所得額を通常よりも抑えることで、譲渡所得税額を下げて売り主を保護する規定です。以下の理由による譲渡の場合、特別控除額が適用されます。
- (1)収用(公共目的の買収)が原因…5,000万円
- (2)マイホームを譲渡した…3,000万円
- (3)特定土地区画整理事業が原因…2,000万円
- (4)特定住宅地造成事業等が原因…1,500万円
- (5)2009~2010年に取得した土地を譲渡した(長期譲渡所得のみ)…1,000万円
- (6)農地保有の合理化などのために土地を譲渡した…800万円
それぞれの特別控除額は、特例ごとの譲渡益が限度となり、その合計は5,000万円です。また、上限に達するまでの控除は(1)から(6)の順に適用されます。
事業用資産を買い換えたときは、「特例」を利用できる可能性あり
不動産投資では、収益性の低い建物や活用が難しい土地を売却してから、「駅に近い」「治安がいい」「利便性が高い」などの好条件の不動産を購入して、収益性を高める方法があります。しかし、不動産を売却して得た収入には譲渡所得税がかかってしまうため、買い換え用の資金が少なくなってしまうのが問題となっていました。
ところが、賃貸などの事業用として使用する場合は、「事業用資産の買換えの特例」を利用することで、税の負担を一時的に減らすことができます。個人が事業用の土地や建物など(譲渡資産)を譲渡して、一定期間内に新しい不動産(買換資産)を取得後、1年以内に事業を行った場合に譲渡所得税を繰り延べできるという制度です。
通常は課税譲渡所得金額の100%に対して譲渡所得税が課せられますが、この特例を利用すれば不動産を売却した金額(譲渡価額)よりも購入した金額(取得価額)が多いとき、売却した金額の20%に課税されるようになります。ただし、注意したいのは、残り80%が非課税となるわけではなく、あくまで繰り延べである点です。将来的には残った分を納税する必要がありますが、買い換え時の負担が少なくなるため、投資家にとっては大きなメリットとなるでしょう。
この特例の指す「事業用」とは、以下を指します。
- (1)相当の対価を得ていること
- (2)継続的に行われていること
例えば、一度対価を受け取ったが、その後まったく対価を受け取っていないというような場合は(2)の条件を満たさないため、事業用とは認められません。業種は特に指定されておらず、不動産賃貸業はもちろん、農業、小売業、製造業などでも適用されます。
「事業用資産の買換えの特例」は、2017年3月31日までの期限付きの特例制度です。元々景気対策や土地の流動化を促すために設けられたもので、この期限を過ぎれば廃止される可能性もあります。譲渡所得税に頭を悩ませている方は、同制度を利用してみるのもひとつの手だといえるのではないでしょうか。