IRR(内部収益率)

「IRR」とはInternal Rate of Returnの略で、NPV(正味現在価値)やROI(投下資本収益率)、PBP(回収期間)などと同様、対象の不動産に投資すべきかどうかを判断する基準となる収益指標のひとつです。「内部収益率」ともいわれています。



ほかの収益指標が抱える弱点

一般的に、販売されている不動産に関して「利回り」と記されている場合、そこに示されている数値は、ほかに特別な注釈がない限り「表面利回り(グロス利回り)」を意味します。この表面利回りは、「年間の賃料収入÷物件取得価格」で算出されます。誰もが簡単に算出できる代わりに、不動産投資に必要な経費がまったく考慮されていないため、投資実態からかけ離れてしまう問題点があります。一方、必要経費や税金などを考慮し、「(年間の家賃収入-年間必要経費・税金)÷物件取得価格」で算出されるのが実質利回り(NOI利回り)です。表面利回りよりも、投資実態をより忠実に反映させる指標ではありますが、1年という短い期間で区切って算出するため、1年以上先の「将来的な家賃変動までは考慮されない」という大きな欠点があります。

同様の計算方法で算出される還元利回りキャップレート)も、不動産投資の現場では活用されています。しかし、こちらは「想定キャップレート」という人為的な指標によって、恣意的に、いわば都合良く基準を操作できるため、正しく実態を表しているのかどうか警戒する動きもあります。

IRRは「金銭の時間的価値」を考慮する

IRRとは、「NPV(正味現在価値)がゼロとなる割引率」と定義されています。ここで言う割引率は「金利」「利息」に近い概念です。例えば、銀行に100万円を定期預金したときの利息が10%だったとして、3年後の満期を迎えるまえに引き出した場合、受け取れる額は以下のように変わります。

0年目 100万円
1年目 110万円
2年目 121万円
3年目(満期) 133万1,000円


定期預金の口座を早期に解約すると、利息分(上記の例の場合は10%)を割り引いた金額が戻ってくることになります。逆に言うと、利率10%で割り引かれた金額しか受け取れません。例に挙げた数字は極端ですが、割引率=金利ととらえておけばIRRを理解しやすくなるでしょう。

もうひとつ、現金を例に説明します。もし、あなたが無条件に「100万円もらえる」となったとき、今日もらえるのと、1年後にもらえるのでは、どちらが良いでしょうか。たいていの人は「今日もらう」ほうを選ぶでしょう。

「1年後にもらえる約束をしても、そのあいだに先方の気が変わってしまうかもしれない」と考え、確実にもらえる今日を選択した人もいるかもしれません。もちろん、それはそれで意義のある選択なのですが、経済的には「その後の1年間で運用して(再投資して)増やすことができるから得だ」と考え、それで今日100万円もらおうと判断することになります。
言い換えれば、明日手に入る100万円より、今日手に入る100万円のほうが、経済的価値が上回るわけです。

一般論として、そもそも金銭は、そこに利息がつくことを前提とするときに「時間的価値」が生じます。
例えば、ある賃貸物件を10年にわたって運用してきて、ある年だけ100万円の利益が出て、ほかの9年間は利益が出なかったとします。

このような場合、その利益が出たのが1年目なのか、それとも10年目なのかによって価値が異なります。もし1年目に出た利益であれば、その後9年にわたって運用することができるからです。仮に年利1%で運用できたとすれば、9年後には約109万3,685円となっています。

経済的な視点では、将来の収入は、現在の収入よりも低いものと割り引いて考えます。将来の収入は運用して増やすことを前提に考えられませんし、将来の出来事は誰にもわからず不確実で、思わぬ大災害や破産などによって収入源が断たれてしまうリスクもあるからです。

裏を返すなら、年利1%での運用を前提としたとき、現在の100万円と、9年後の約109万3,685円は、時間的価値の物差しにおいて同等になるのです。

IRRでも、この時間的価値を考慮に入れます。例えば、年利1%で100万円を借り入れて、何らかの事業を興したとしても、10年間で90,000円の利益しか出せなければ、利息を支払って赤字となってしまいます(前述のとおり、年利1%の複利は約93,685円となるからです)。
この場合は、IRRが1%を上回っていれば、事業として成功したといえることになります。

事業を始めるにあたって投下した資本を早期に回収できる場合、そのIRRは高率といえるでしょう。IRRを使うと、同じ100万円を「誰かに融資したほうが得をする」のか、それとも「不動産投資したほうが得になる」のか、というように「異なる事業間で比較」できます。IRRには、さまざまな投資対象を同一の物差しで測定できる柔軟性があるのです。

IRRのメリット

ほかの指標とは異なり、IRRでは次に挙げる収支実態を算出できます。

【開始時】どれだけの金額が出ていくか
【運用時】毎年どれだけの金額が入ってくるか
【売却時】手元にどれだけの金額が残るか

つまり、投資家の最大の関心事である要素を、漏れなく反映しているのです。
実際の不動産投資において、収支の動きが最も複雑になるのは「運用時」です。例えば「空室率が変動」すれば、それに対応して賃料収入の総額も変動します。時には、大規模修繕によって多額の出費を要することもあります。また、この間にインフレやデフレが起きれば、実質的に受け取れる金銭の価値も変化していきます。このような毎年の収支変動をしっかりと追いかけて、運用期間中における「全体的な利回りを算出」できるのが、IRRの最大のメリットです。

IRRでは、不動産を買ってから売るまでのあいだに起こりうる「収益変動のあらゆる要素」を考慮に入れることができます。例えば、ある不動産の10年間のIRRが15%と算出された場合、金融機関に年利15%の定期預金(複利)を10年間預けることと同じ扱いになります。銀行預金と同等のレベルで、不動産投資における将来的な利回りの可能性を計算できるのです。利回りの優秀さを、ほかの金融商品と比較して検討できるようになるのがIRRの特徴といえます。ただし、預金とは違い「不動産投資では同じ商品をあとで追加購入することができません」から、実質的な利回りが預金よりも下がる場合があります。

IRRのデメリット

IRRは、ほかの指標と比べれば投資実態をほぼ忠実に反映させることができますが、それでも場合によっては実態からかけ離れてしまうことがあります。例えば、「小規模な物件」「高金利の融資金で取得した物件」「空室の生じるリスクが高い物件」などは、実際に受け取れると見込まれる収益よりも、IRRが高い数値で表れることがあるのです。高率のIRRに惑わされて、将来的に損をする物件をつかまないように気を付けなければなりません。

なお、IRRの高い物件を不動産業者に探してもらおうとしても、そもそもIRRのことを知らない業者が多く、事前にわかりやすく説明しなければならない点で手間がかかります。また、IRRは「数年後に得られる売却益」を前提にして計算しますので、将来的に売却する予定のない賃貸物件では算出できないことも覚えておきましょう。

IRRの計算式

IRRの算出方法は、少々複雑です。ある不動産をn年後に売却するとした場合、以下のような計算式で算出します。

投資額={1年目のキャッシュフロー ÷(1+IRR)}+{2年目のキャッシュフロー÷(1+IRR)の二乗}+…+{n年目のキャッシュフロー÷(1+IRR)のn乗}

仮に5,000万円の物件を購入、毎年300万円ずつキャッシュフローが残り、5年目に4,500万円で売却した場合で考えてみましょう。Excel(表計算ソフト)のIRR関数を用いると、以下のような結果になりました。

年度 収益
0年目(購入) -50,000,000円
1年目 3,000,000円
2年目 3,000,000円
3年目 3,000,000円
4年目 3,000,000円
5年目(売却) 45,000,000円
IRR 約3%


なお、Excelで計算する場合は、計算式の「投資額」には物件の購入金額だけでなく、不動産取得にかかる、すべての費用を盛り込んでおかなければ、正確なIRRを算出することができません(上記の例では単純化するため費用は含んでいません)。

例えば、「不動産取得税(課税標準に対し、土地で3%、建物で4%)」「売買契約書の印紙代」「不動産仲介手数料」「金銭消費貸借の契約書印紙代や抵当権設定費用(購入金を借り入れた場合)」「不動産登記に要する登録免許税や司法書士報酬」「購入時のリフォーム費用や資本的支出(中古物件の場合)」を考慮に入れる必要があります。

また、不動産を賃貸運用中に必要な経費には、「固定資産税・都市計画税 」「賃料収入にかかる所得税や法人税」「修繕管理費・共用部分の光熱費・管理委託費用(集合住宅などの場合)」「金利(購入金を借り入れた場合)」などが挙げられますので、これらを賃料収入から差し引いた上で、各年のキャッシュフローを算出しなければなりません。

IRRの算出は、ほかの指標と比べると手間がかかりますが、数年後の売却を前提とした不動産投資においては重要な数値となります。もちろん、IRRだけがすべてではありませんので、異なるアプローチの指標と組み合わせて比較・検討するようにしましょう。