相続人
(そうぞくにん)
「相続人」は、「被相続人(遺産を残して亡くなった家族)」から、遺産を受け取る権利を有する人のことです。人は日常生活を送るにあたって、さまざまな「物」を所有しています。その所有権は、物に対する完全な支配権(使用・収益・処分できる権利)ですから、自分が使うだけではなく、他人と貸し借りすることもできます。自分が所有する物を人に貸せば、家賃や利息などの収益を得られますし、他人の所有物を借りた場合は、その物や利息を支払わなければならない立場になります。しかし、その立場は永久に続くものではありません。人はいつか死んでしまうからです。
所有権などの権利や、家賃・借金の支払い(返済)などの義務は、法律上、生きている人にのみ帰属します。死亡したあとでは、権利の行使や義務の履行ができないため、この扱いはやむをえないところです(なお、生まれるまえの胎児は、親が代理する形で権利の一部を行使できる場合があります)。ただ、人の死亡によって、今まで存在していた権利や義務が消滅してしまうと、社会は極めて不安定な状況に置かれてしまいます。ある土地や建物のオーナーが死亡したとき、その物件の所有権も消滅してしまうのであれば、物件を借りている人も賃借権 の根拠を失い、追い出されてしまうことになりかねません。
死亡したとき、誰に所有権などを譲り渡すか、生前に「遺言
」として書き残しておくこと(遺贈)も有効です。しかし、すべての人が遺言を残すほど用意周到ではありませんし、事前に準備のしようがない、不幸な急死もありえます。そこで、遺言がなくても、人の死亡によって、生前にその人が持っていた権利や義務が、相続人へ自動的に移転する(相続される)ものと扱うことにしました。なお、民法882条では、「相続は死亡によって開始する」と定めています。相続は誰の意思も関係なく、問答無用で始まるのです。
相続人の立場・順位は法律で決められている
相続人になれる人は民法によって決められていることから、「法定相続人」とも呼ばれます。そして、相続がまだ始まっていない段階において、相続後に法律上、法定相続人になりうる立場の家族を「推定相続人」と呼ぶこともあります。
遺産相続手続きでは、遺言状によって特定の人を受取人に指定したり、分配の割合を変えたりすることもできますが、遺言状がない場合は法律に則って遺産相続されます。なお、いずれのケースでも常に相続人となるのは被相続人の配偶者です。それ以外の人は、順位に応じて、配偶者とともに相続する権利が与えられます。
第1順位 死亡した人の子供
配偶者と死亡した人の子供が相続人となる場合、配偶者が遺産の2分の1を受け取り、子供が(兄妹姉妹全員で)残りの2分の1を受け取ります。法定相続人である子供がすでに死亡していた場合は、その子孫が相続人です。また、死亡した子供に子と孫がいる場合は、近い世代が優先されます。
第2順位 死亡した人の直系尊属
直系尊属とは、自分よりまえの世代で、且つ直通する系統の親族のことです。父母・祖父母・養父母などは含まれますが、叔父や叔母、配偶者の父母・祖父母・養父母などは対象外となります。配偶者と死亡した人の直系尊属が相続人となる場合、配偶者が遺産の3分の2を受け取り、直系尊属が(2人以上のときは全員で)残りの3分の1を受け取ります。
なお、第2順位の人は、第1順位の相続人がいないときに相続の権利が発生します。
第3順位 死亡した人の兄弟姉妹
配偶者と死亡した人の兄弟姉妹が相続人となる場合、配偶者が遺産の4分の3を受け取り、兄弟姉妹が(2人以上いるときは全員で)残りの4分の1を受け取ります。法定相続人である兄弟姉妹がすでに死亡していた場合は、その子孫が相続人となります。
第3順位の人は、第1順位と第2順位の相続人がいないときに相続の権利が発生します。
「相続税」は、各人が受け取った遺産額に直接課せられるものと誤解されやすいですが、正しくは「遺産額から基礎控除を差し引いたものを、法定相続分 により按分した金額に応じて課せられる税金」です。ここを誤ると、計算結果が大きく異なってしまいますのでご注意ください。
ちなみに、財務省の統計によると、被相続人1人あたりの法定相続人数は年々減少傾向にあり、2013年の時点で平均2.97人となっています。相続人の法定相続分を増減したい場合は、遺言状によって対応可能です。投資用不動産 を相続するときは、その後も利益を生み出せるように、被相続人とノウハウを共有しておくと良いでしょう。
相続人は、外れることもできるし、外されることもある
相続人は、被相続人の権利だけでなく義務も引き継ぎます。例えば、亡くなった家族が莫大な借金を抱えていたり、他人の借金の連帯保証人になっていたりすれば、それを返済する義務もいっしょに相続することになります。そこで、相続人の立場を、みずからの意思で外れることができます。これを「相続放棄」といい、相続が始まったことを知ってから3ヵ月以内に、家庭裁判所に申請することで認められます。なお、被相続人の存命中は、その家族は相続放棄をすることはできません。
また、第1順位か第2順位の相続人で、被相続人に対し、生前、虐待や重大な侮辱などの著しい非行を加えたときは、被相続人がその人を相続人の立場から外すことができます。これを「推定相続人の廃除」といい、生前の被相続人による家庭裁判所への申請や、遺言に書き残すことによって行います。さらに悪質な推定相続人は、法律上、最初から相続人の立場になれません。これを「相続欠格」といいます。例えば、被相続人や自分よりも先順位の相続人を殺害(未遂も含む)したり、遺言の内容を偽造したりした者が該当します。