不動産所得
(ふどうさんしょとく)

「不動産所得」とは、不動産総収入から必要経費を控除するなどしたあとの、不動産収入にかかる所得税 の計算対象となる金額のことです。


所得税法第二六条によれば、不動産所得については下記のように定められています。


第二六条 (不動産所得)
1. 不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利、船舶又は航空機(以下この項において「不動産等」という。)の貸し付け(地上権又は永小作権の設定その他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得 又は譲渡所得 に該当するものを除く。)をいう。
2. 不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。


なお、国税庁タックスアンサーでは、不動産所得に関する総収入金額について下記のように具体的な記述があります。


<不動産所得に関する総収入金額>

  • ・土地や建物などの不動産の貸し付け
  • ・地上権など不動産の上に存する権利の設定及び貸し付け
  • ・船舶や航空機の貸し付け
  • ・名義書換料、承諾料、更新料 又は頭金などの名目で受領するもの
  • ・敷金や保証金などのうち、返還を要しないもの
  • ・共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など


上記の合算(事業所得または譲渡所得に該当するものを除く)である不動産総収入から、必要経費を差し引いたものを不動産所得と定義します。


一般に、不動産投資家が収益物件 を購入し、賃貸経営を行った場合に得られる家賃収入は、不動産所得と見なされます。不動産所得には所得控除 はありません(ただし、青色申告をする場合は青色申告特別控除額の控除が受けられます)から、不動産所得額を求めるためには、単純に不動産総収入から必要経費を差し引けばいいことになります。


必要経費として認められるもの

不動産運営の際に生じた費用すべてが、必要経費になるわけではありません。必要経費として認められるのは「不動産収入を得るために直接必要な費用のうち、家事上の経費と明確に区分できるもの」のみです。必要経費として認められる主要な費目としては、下記のようなものが挙げられます。


租税公課
租税公課とは、地方税などの「租税」と、公的負担の「公課」を総称したものです。具体的には不動産取得税 、業務用の部分の固定資産税 、印紙税などの税金が該当します。ただし、罰金のたぐいは経費に入れることはできません。


◆損害保険料
補償対象が投資用不動産 の場合、原則として火災保険料や地震保険料などの損害保険料が必要経費として認められます。ただし、計上できるのは申告する年にかかる分だけです。例えば、10年分の保険料を一括して支払ったとしても、その年に計上できるのは1年分のみです。また、賃貸物件の一部を自宅として使用している場合、自宅にかかる保険料については所得控除(損害保険料控除)の対象となりますので注意しましょう。


◆減価償却費
減価償却資産である不動産は、資産を取得した金額を使用可能期間にわたって分割し、毎年必要経費として計上することができます。使用可能期間とは、建物が使用できる期間ではなく、財務省によって定められた「法定耐用年数」のことで、建築方法や材質によって償却できる期間が異なります。実際の支出がなくても計上可能な費用で、この制度を活用することで節税を狙うことができます。詳しくは「減価償却 」の項をご覧ください。


◆修繕費
維持管理費や修理費としての支出は、必要経費として認められます。ただし、修理費という名目であってもリフォームのように資産の価値を高めるもの、使用可能年数を延長させるものについては、修繕費とは別の「資本的支出」と見なされます。資本的支出にかかった費用は、減価償却により各年分の必要経費として計上できます。


◆借入金利息
投資用不動産を取得する際に要した借入金の利息は、必要経費として算入することができます。建物の取得費用よりも多めにお金を借りる「オーバーローン 」という手法がありますが、必要経費になるのは建物の取得費用のみであって、それ以外の利息は必要経費にならないので注意しましょう。また、不動産所得の金額が赤字になった場合、利子の額に相当する部分の損失額は生じなかったものとされ、ほかの所得金額との損益通算をすることはできません。


◆管理費
投資用不動産や入居者の管理を管理会社 などの第三者に委託する場合、その費用を必要経費に算入することができます。おもなものとしては、入居者募集の広告料、共用部分の清掃費、設備の点検費用、管理手数料などが挙げられます。


◆交通費・宿泊費
不動産を見るために使った交通費及び宿泊費も、必要経費として計上することができます。ただし、経費として認められるのは不動産を対象にした経費だけです。例えば大阪の物件を見たあと、ついでに京都で観光したという場合は、すべてを経費として算入することはできません。


ほかにも通信費、接待交際費、消耗品費など、さまざまな費用が必要経費として計上できます。なお、不動産の貸し付けが事業規模に達している(いわゆる「5棟10室基準」を満たしている)場合は、青色申告を行うことで、青色事業専従者給与や未回収家賃も必要経費として算入できるようになります。


必要経費は正確に申告すること

不動産所得にまつわる支出が、すべて必要経費になるわけではありません。誤って必要経費にならないものを経費として申告して、それを税務署に指摘された場合は、罰金を支払う必要があります。 企業の税務調査ほどきびしくありませんが、近年は個人投資家のあいだで脱税行為が増えていることから、税務署でも細かくチェックしているようです。「節税テクニックのつもりが脱税を指摘された」ということにならないためにも、まずは必要経費として認められるものと、そうでないものをしっかりと把握しておきましょう。