減価償却
(げんかしょうきゃく)
不動産投資を行う人が必ず覚えておかなくてはいけない言葉のひとつに「減価償却」があります。具体的には、時間の経過とともに価値が減少していく資産の取得にかかった費用を「必要経費として配分」する会計処理のことです。
建物や建物に付属する設備、機械装置、車両運搬具などは、1回使ったら処分するようなもの(消耗品)ではありません。これらの資産は、非常に長い期間にわたって利益を生み続けると同時に、年月を経ると価値が減少していきます。いずれも安価なものではなく、入手するには相応の金額を支払う必要もあります。こういった資産の取得費用は、一括処理するよりも「使用可能期間にわたって分割」して会計処理することが現実に即していることから、減価償却というしくみが生まれました。
不動産の減価償却
ここでいう「使用可能期間」は、建物が崩れて住めなくなるというような物理的な寿命ではなく、「減価償却資産の耐用年数 等に関する省令」によって定められた「法定耐用年数」のことです。詳しくは、下記の表のとおりとなっています(国税庁・建物の耐用年数)。
減価償却資産(建物・建物付属設備)の耐用年数
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
---|---|---|
事務所 | 24 | |
店舗、住宅 | 22 | |
飲食店 | 20 | |
木造・合成樹脂造 | 旅館、ホテル、病院、車庫 | 17 |
工場、倉庫 | 15 | |
公衆浴場 | 12 | |
事務所 | 22 | |
店舗、住宅 | 20 | |
飲食店 | 19 | |
木骨モルタル造 | 旅館、ホテル、病院、車庫 | 15 |
工場、倉庫 | 14 | |
公衆浴場 | 11 | |
事務所 | 41 | |
店舗、住宅、飲食店 | 38 | |
れんが造・石造・ブロック造 | 旅館、ホテル、病院 | 36 |
車庫、工場、倉庫 | 34 | |
公衆浴場 | 30 | |
事務所 | 50 | |
住宅 | 47 | |
飲食店 | 41 | |
飲食店(延べ面積のうち木造内装部分が30%以上) | 34 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 旅館、ホテル | 39 |
旅館、ホテル(延べ面積のうち木造内装部分が30%以上) | 31 | |
店舗、病院 | 39 | |
車庫、工場、倉庫 | 38 | |
公衆浴場 | 31 |
木造よりれんが造やブロック造の耐用年数が長く、鉄筋コンクリート造は木造の倍近い期間が設定されていることがわかります。また、用途別では住宅より事務所用の建物が長期になりますが、事務所と同様に人の出入りが激しい飲食店や旅館、ホテル、病院といった建物はやや短くなっていることも特徴です。いずれの構造も、一番短いのは公衆浴場(銭湯)で、日常的に水分(湿気)にさらされる建物の弱さを表しています。
減価償却費の計算方法
減価償却費を計算するまえに、大前提として減価償却資産の償却率が不動産の取得日によって変わることを覚えておきましょう。2007年3月31日までに購入したものと、同年4月1日以降に購入したものでは、同じ耐用年数であっても率が若干異なります(下表参照)。
なお、2016年4月1日以降に取得した不動産の建物設備については、毎年同じ額を減価償却する「定額法
」が基本になりました。かつては初年度の減価償却額が大きくなる「定率法
」も採用されていましたが、2016年4月1日以降は「機械装置・器具備品・車両等」にのみ対応しています。
【減価償却資産の償却率表】(国税庁発表資料より)
耐用年数 |
2007年4月1日以降取得 定額法償却率 |
2007年3月31日以前取得 旧定額法償却率 |
---|---|---|
2 | 0.5 | 0.5 |
3 | 0.334 | 0.333 |
4 | 0.25 | 0.25 |
5 | 0.2 | 0.2 |
6 | 0.167 | 0.166 |
7 | 0.143 | 0.142 |
8 | 0.125 | 0.125 |
9 | 0.112 | 0.111 |
10 | 0.1 | 0.1 |
11 | 0.091 | 0.09 |
12 | 0.084 | 0.083 |
13 | 0.077 | 0.076 |
14 | 0.072 | 0.071 |
15 | 0.067 | 0.066 |
16 | 0.063 | 0.062 |
17 | 0.059 | 0.058 |
18 | 0.056 | 0.055 |
19 | 0.053 | 0.052 |
20 | 0.05 | 0.05 |
21 | 0.048 | 0.048 |
22 | 0.046 | 0.046 |
23 | 0.044 | 0.044 |
24 | 0.042 | 0.042 |
25 | 0.04 | 0.04 |
26 | 0.039 | 0.039 |
27 | 0.038 | 0.037 |
28 | 0.036 | 0.036 |
29 | 0.035 | 0.035 |
30 | 0.034 | 0.034 |
31 | 0.033 | 0.033 |
32 | 0.032 | 0.032 |
33 | 0.031 | 0.031 |
34 | 0.03 | 0.03 |
35 | 0.029 | 0.029 |
36 | 0.028 | 0.028 |
37 | 0.028 | 0.027 |
38 | 0.027 | 0.027 |
39 | 0.026 | 0.026 |
40 | 0.025 | 0.025 |
41 | 0.025 | 0.025 |
42 | 0.024 | 0.024 |
43 | 0.024 | 0.024 |
44 | 0.023 | 0.023 |
45 | 0.023 | 0.023 |
46 | 0.022 | 0.022 |
47 | 0.022 | 0.022 |
48 | 0.021 | 0.021 |
49 | 0.021 | 0.021 |
50 | 0.02 | 0.02 |
木造住宅の減価償却期間は22年、償却率は0.046ですから、仮に3,000万円の新築アパートの場合、年額138万円を減価償却費として計上できます。鉄筋コンクリート造の新築マンションになると期間は47年、償却率は0.022なので、3,000万円の建物の減価償却費は年額66万円ということになります。
単純に数字だけを比べると、木造住宅のほうが経費を大きく計上できる分、利益を圧縮できますが、期間は22年と限定されてしまいます。一方、鉄筋コンクリート造の場合は半額以下になってしまいますが、期間は倍以上の47年です。
また、中古物件の場合は、築年数と法定耐用年数によって減価償却費を計上できる期間が変わります。具体的な計算式は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%=耐用年数」となります。つまり、築10年の鉄筋コンクリート造のマンションの場合、「(47-10)+10×0.2」で求められる39年ということです。この場合の償却率は0.026ですから、この建物が1億円だったときの減価償却費は年額260万円になります。
より古い物件になると、法定耐用年数を超過しているケースも考えられます。その際の計算式は一律で「法定耐用年数×20%=耐用年数」となります。仮に築30年の木造アパートの場合、法定耐用年数の22年を超過していますので、「22×0.2」で求めた4年(小数点以下は切り捨て)が耐用年数です。建物が2,000万円の場合、減価償却費は年額500万円(償却率は0.25)になります。
土地は減価償却資産の対象外
なお、同じ不動産ではありますが、経年劣化が基本的にない「土地」については、減価償却資産の対象外となっていますので注意しましょう。前述の例は建物価値に限定して計算を行いましたが、実際の不動産は土地と建物を合わせた金額で購入するものです。地価の高い地域や築年数が経過している建物の場合、土地8:建物2というような割合になっていることが少なくありません。このようなケースでは、購入価格が1億円でも減価償却資産の対象となる建物の価値は2,000万円となり、経費として計上できる金額は圧縮されてしまいます。
購入した土地と建物の価値を分け、正しい減価償却資産を導くには、売買契約書に明記されている数字が第一です。1億円で購入した中古不動産で、土地5,000万円・建物5,000万円と記載があれば、減価償却資産は5,000万円。あとは法定耐用年数との関係を調べることで、減価償却費を算出できます。
このしくみの良いところは、売主に建物価格を記載してもらうことで減価償却費をコントロールできることです。実態とかけ離れた設定は問題がありますが、そもそも不動産の売買には定価が存在しません。売主と買主が交渉をしてまとまった金額が適正な価格ですから、土地と建物の配分も自由が利くわけです。
一方、土地と建物の総額が1億円と記載されていた場合は、固定資産税評価額
を利用して土地と建物の価値を分けます。不動産の固定資産税評価額が8,000万円で、土地6割、建物4割という内訳のときは、3,200万円の建物に対して築年数などを考慮した減価償却費を計上できることになります。