「OPEX(Operating Expense またはOperating Expenditure)」とは、事業を運営するために必要な費用のことで、「事業経費」とも呼ばれています。また、OPEXに対して、事業の生産性の維持や向上を図るための資本的支出は「CAPEX(Capital Expenditure)」といいます。
例えば企業の事業活動においては、営業費、人件費、オフィス賃貸料、電気代、通信費、交通費などがOPEX、設備投資がCAPEXに該当します。
不動産投資におけるOPEXとは、「投資の運用に必要な経費(ランニングコスト)」を指します。具体的には固定資産税、都市計画税、損害保険料、管理費、修繕積立金、共用部電気代、消防設備点検・補修費、上下水設備点検・補修費、電気設備点検・補修費、エレベーター点検・補修費、監視カメラやオートロックなど防犯関連機器メンテナンス費用などの総額となります。
特に寒冷地・豪雪地帯の物件であれば、冬季に共用部分の暖房費用、融雪・除雪費用、そのための機器のメンテナンス費用などがOPEXに上乗せされますので、その分、経営が難しくなりえます。
不動産賃貸事業を管理会社に委託する場合、その管理手数料はOPEXに含めます。一方で、不動産投資ローンの金利や減価償却費などは、OPEXに含めてはなりません。
なお、一般的な建物修繕費はOPEXに含まれますが、リフォームなど不動産の価値を高める長期修繕計画にかかる費用はCAPEXとなりますので、区別に注意してください。
「EGI(Effective Gross Income)」は、不動産事業における「実効総収入」と呼ばれるものです。物件が満室になったと仮定した場合の、その物件における上限いっぱいの賃料売上が「総潜在賃料収入(GPI)」となりますが、実際の空室損失や家賃滞納損失を加味した、リアルな賃料売上がEGIということになります。
ここから、不動産運用のランニングコストにあたるOPEXを差し引くと、物件オーナーの手元に入る手取り家賃が算出できます。一般の企業活動では、いわば「営業純利益(NOI)」に近いものといえます。
ただし、あらゆる事業関連税を差し引いてある営業純利益と違い、「EGI-OPEX」で差し引かれている税金は、固定資産税・都市計画税といった不動産関連税のみです。この手取り家賃は課税対象となり、さらにオーナー個人の所得税 や住民税が差し引かれますので、初めて不動産投資をされる方は、納税資金を確保しておくことを忘れないようにしてください。
OPEXを意識して具体的に数字を出していれば、不動産経営の要である「 損益分岐点(BER)」についても算出することができます。
ここで出てくるのが、OPEXから除外しておいた不動産投資ローンの返済額で、元本分と利息分を合わせた「年間元利返済額(ADS)」です。
これらの数字がそろえば、全室のうち、どれだけの割合で入居者が埋まれば(且つ、家賃の滞納もなければ)収支がトントンになるのか、予め把握した状態で経営計画を立てることができます。
損益分岐点(BER)=(ADS+OPEX)÷GPI
OPEXには、入居者の募集費や宣伝広告費用も含まれますから、宣伝に懸命になりすぎれば、損益分岐点が引き上がってしまいます。入居率の向上(空室率の減少)ばかり追ってしまうと、経営が暗礁に乗り上げる可能性もありますから、OPEXの上がりすぎには注意しましょう。
OPEX比(物件から得られる年間の最大収入額に占めるOPEXの割合)によって、運営費が適切であるかどうかを知ることができます。建築方法や素材によって指標となる数値は異なりますが、おもな区分としては以下のようになります。
・区分所有:22~25%
・一棟アパート:約13%
・一棟マンション:15~20%
区分所有の指標が高めに設定されているのは、投資物件の規模が最小単位(1室)であることにより、家賃収入に対するOPEXが相対的に大きくなるためです。区分所有の一室の家賃を上げれば、計算上OPEX比は下がるのですが、入居者の募集が難しくなります。入居者を確保できなければEGIが引き下がるため、純利益も下がりますから、運営コストと収益性のバランスに配慮しなければなりません。
それでは、実際に計算してみましょう。
<区分所有マンションAを1ヵ月運用した場合>
・家賃収入:60,000円
・管理費:5,000円
・積立金:3,000円
・固定資産税・都市計画税:3,000円
・管理代行費:3,000円
OPEX(5,000円+3,000円+3,000円+3,000円)=14,000円
OPEX比:14,000円÷60,000円=23.3%
OPEX比が指標の22~25%以内であるため、物件Aにかかっている運営費は適切といえます。しかし、不動産運営ではイレギュラーな費用が生じる点に注意しなければなりません。例えば、1年間運用したときの比率を見てみましょう。
<区分所有マンションAを1年間運用した場合>
・家賃収入:72万円
・管理費:60,000円
・積立金:36,000円
・固定資産税・都市計画税:36,000円
・管理代行費:36,000円
・給湯器の交換:20,000円
OPEX(60,000円+36,000円+36,000円+36,000円+20,000円)=18万8,000円
OPEX比:18万8,000円÷72万円=26.1%
このように、「給湯器の交換」というイレギュラーな出費が加わったことで、OPEX比が指標を超えてしまいました。つまり、物件を維持するための費用がかさんでいるということになります。
区分所有マンションの投資に失敗する最大の要因は、上記のようなOPEXによる実収入の圧迫です。一棟マンションの場合は総家賃収入が多くなるため、給湯器の壊れた家が数戸あったとしても実収入はほとんど変わりませんが、区分所有の場合は収支に多大な影響を与えてしまいます。
ただし、この指標はあくまでもひとつの目安に過ぎません。仮に、築年数の古い中古マンションを購入した場合、設備や施設の修繕・修理などで一時的にOPEXが増加するのは当然のことです。つまり、指標を超えたからといって、すぐに影響が出るわけではありません。しかし、不動産投資家として「収入に対する運営費の割合」を常に知っておく必要があります。
地方物件の投資において、OPEX比の把握は極めて重要です。地方では都心部と比べて家賃が低くなりますので、物件から得られる年間の最大収入額が低くなる一方、損害保険料、管理費、修繕積立金、共用部電気代、各種共用設備点検・保守費といった、OPEXの主要経費は都市部とほとんど変わらないのです。
例えば、都心物件Aから得られる年間の総家賃収入が600万円、地方物件Bが3割安の420万円で、いずれもOPEXが80万円だったと仮定してみましょう。
<都心物件Aの場合>
80万円÷600万円=13.3%
<地方物件Bの場合>
80万円÷420万円=19.0%
このように、家賃相場が異なるだけでOPEX比に5.7ポイントもの開きが出てしまいました。地方には高利回りの物件が数多く存在していますが、実際には賃料が低いことでOPEXの負担が相対的に大きくなってしまう点を考えると、一概にお得な物件とはいえないわけです。
さらに地方には、空室・家賃滞納損失リスクが高いという問題があります。地方物件の「 BTCF(税引き前キャッシュフロー)」は都心部の半分程度といわれており、いくら利回りが高かったとしても、場合によっては都心物件よりも投資効率が下がる可能性があります。
高利回りに引かれて地方物件に投資する方は少なくありません。しかし、OPEXを無視してしまうと、投資計画に大きな問題が発生する可能性があります。地方物件を購入する際には、OPEXを含めたシミュレーションを行うようにしてください。
不動産経営をする場合は、定期的にOPEXの見直しを行う必要があります。運営費のコストダウンに成功すれば、その分キャッシュが増え、経営にゆとりが生まれるからです。例えば、マンションの照明をすべて消費電力の少ないLEDに切り替えたり、誰でも使用できる外水栓を管理人しか使用できないようにしたり、花壇や植栽の手入れを住民で行うようにしたりすることで、小さな改善であっても長い目で見れば大きな節約になります。
とはいえ、清掃費やメンテナンス費用、点検費など、建物の維持に関わる部分については、安易に削減すると建物の価値が下がってしまう可能性がありますので注意が必要です。こういった部分のコストダウンを図る場合は、複数の業者に見積もりを出してもらって、最もコストパフォーマンスの高いサービスに切り替えるといいでしょう。
不動産を運営する際は、リフォームなどのCAPEXで物件の価値を高めることも欠かせませんが、OPEXを見直し、無駄な出費を抑えていくことも重要なポイントになります。