積算評価・積算価格
なお、積算評価は「この土地を今すぐ購入し、まったく同じ建物を建てるとしたときにかかる費用」を求めるという考え方で不動産の評価を行うことから、「原価法」とも呼ばれます。つまり、その土地を購入し、造成した更地に今と同じ建物を建築すると仮定して、原価を計算するものです。こうして得られた価格を「再調達原価」といい、その価格から経年などによる減価分を差し引くことにより、実態に近い不動産の価値を求めます。
ちなみに、土地の評価方法として代表的なものは、積算評価のほかに「収益還元法(この不動産から、将来どれだけの収益が見込めるかという収益価格を見積もる方法)」などがあります。
収益還元法は、不動産を収益物件として運用することを前提とした評価法ですから、投資物件の購入を検討する際の評価法としては有益でしょう。しかし、金融機関が投資家に融資する際は「債務者が債務不履行に陥った場合に、担保に設定した不動産の売却価格」を知りたいので、積算評価を用いることが一般的です。つまり、積算評価は「融資の可否や融資額の上限」などを決定する重要な指標のひとつとなるのです。
積算評価による土地と建物の価値の求め方
前述のとおり、積算評価では土地と建物を別々に評価します。
まず、土地の評価額は次の計算式で求められます。
価額=不動産の路線価(相続税評価額)×土地の平米数
路線価とは、国税局によって定められる、道路に面している宅地の評価額のことです。その年の1月1日時点の土地の価格が、例年7月に公表されることになっています。路線図は平米あたりの単価で示されるため、これに土地の平米数をかけることで評価額を求めることが可能です。
ただし、一部の金融機関では、国土交通省の公示地価や都道府県の基準地価など、別の指標をもとに評価が行われています。また、路線価で評価を行う場合も、土地の立地や形状などの条件に合わせて評価額を調整することがありますので注意してください。
一方、建物の評価額は次の計算式で求められます。
評価額=建物の延床面積×再調達価格×(残耐用年数÷法定耐用年数)
ここでいう再調達価格とは、対象不動産の建物を現時点でもう一度新築した場合の価格です。こちらは、建物の構造によって、以下のように「平米あたりの単価」が定められています。
鉄筋コンクリート(RC)…20万円/平米
重量鉄骨…18万円/平米
木造…15万円/平米
軽量鉄骨…13万円/平米
※金融機関によって単価設定は異なります。
不動産投資においては、不動産の実際の購入金額に対して積算価格が高い物件のほうが、金融機関からの融資を受ける上で有利であると考えられます。もっとも、積算価格は融資判断の重要な要素ではありますが、積算価格だけで融資の可否、あるいは借入上限額が決定するわけではないということを理解しておく必要があるでしょう。
不動産投資成功の鍵は、積算価格の把握
積算価格を算出してみると、更地に建築する建物への投資額に見合わないほど、価格が低くなってしまう場合があります。このようなケースでは、不動産投資が事業として成り立たなくなりますので、建物の建築価格を抑えて投資額を積算価格に近づけるか、家賃を相場よりも引き上げることで積算価格を上げるという二者択一を迫られることになるでしょう。
ちなみに、亡くなった家族から引き継いだ更地に賃貸物件を建てると、土地の相続税評価額を抑えられるなどのメリットがあります。ただし、不動産への投資が大きなリスクとなりかねないケースでは、物件を建てることには慎重になるべきです。
特定の不動産に投資を行う際、どれほどのリスクが内在されているかは、積算価格を把握することであぶり出すことができます。
積算価格が取引実態を反映していない場合もある
積算価格は取扱いに注意するべき場面があります。たとえ条件や状態の良好な物件が建っている物件であっても、人口が少なく、不動産購入の需要がない地域では、積算価格と市場価格が噛み合わないことが往々にして起きるからです。特に工場や診療所など、用途が特殊で限定された物件が建っていると、なおのこと買い手が現れにくく、積算価格を大幅に下回る額をつけても売れず、市場価格が実質ゼロになってしまうことも珍しくありません。
そうなれば、建物の取り壊し費用を考慮に入れても、更地にして売りに出したほうが高値となる期待が持てます。建物付きの不動産を購入する際は、積算価格の先入観に引きずられて、市場価値よりも高値でつかまされないよう注意しておく必要があります。
中古物件の積算価格と修繕費(ランニングコスト)の関係
物件の経年劣化による積算価格の下落を抑えるためには、定期的な修繕が必要となります。この修繕の周期は、物件を構成する部品・部分ごとの「期待耐用年数」を基準に行うことが基本です。より規模の大きい修繕は、新築時の価値に近づけるために行うものですが、修繕費がかさむと全体としてのコスト負担も高まってしまいます。
なお、建物の期待耐用年数は、実際の耐用年数より余裕のある設定になっていますので、修繕周期を完全に守らなくても問題はありません。修繕の回数を減らしてコストを抑えることができれば、積算価格の経年下落をより効率的にコントロールできます。また、新築同等にまで近づけなくても、必要最小限度の修繕に抑えることで、下落していく積算価格に見合った合理的な修繕コストに収めることも可能です。
いずれの方法もオーナーの自己責任で実行する必要はありますが、マニュアルどおりに修繕するのではなく、積算価格と修繕費のバランスをよく考えてメンテナンスをするようにしましょう。