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取引事例比較法

torihikijireihikakuhou01.jpg 「取引事例比較法」とは、不動産の価格を求める手法のひとつです。評価対象の物件に近い取引事例に対して、事情補正及び時点修正、地域要因や個別的要因の比較を行って試算価格を求めます。この計算で導き出された価格を「比準価格」と呼びます。

過去に取引きされた事例に基づいて価格を導く取引事例比較法は、不動産の鑑定評価に適していることから、特に中古住宅の評価方法として広く利用されています。しかし、「類似物件が少ない」「比較できる数が少ない」「取引きから年月が経過している」などの要因で、取引事例を参照できない物件の鑑定には向いていません。

<比準価格を求める計算式>
対象不動産の価格=取引事例の価格×事情補正×時点修正×地域要因×個別的要因

取引事例比較法を用いるために満たすべき条件

不動産の比準価格を求めるには、何よりも取引事例を収集することが大切です。また、集めた事例を精査し、比較対象として適正なものだけを選別する必要もあります。


1. 取引事例の収集

まずは、取引事例をできるだけ多く集めることが求められます。資料やデータなどを参照し、机上で収集することも可能ですが、できるだけ当事者から話を聞くことが重要です。そうすることで、より実態に即した信頼性の高い不動産鑑定評価を導くことができます。参照できる取引事例が多いほど、平均値に近づくことができるため、適正な価格を導きやすくなるでしょう。
ただし、人口の少ない地方では、不動産取引の件数そのものが多くないため、年に数件ほどの類似取引事例を集めるのがやっとかもしれません。こうした地方で不動産鑑定を行うときは、取引事例比較法以外の方法を選んだほうが良いでしょう。


2.・取引事例の選択

集まった事例が、そのまま取引きの真相を示しているとは限りません。鑑定士がその取引きの現場に居合わせた当事者であれば信頼できる一次情報ですが、そのような事例を鑑定するケースは極めてまれです。
聞き取った話も、紙やデータ上の情報も、加工された二次情報というべきで、嘘や誇張が紛れ込んでいる場合があるのです。
それでも、実際に面と向かって聞き取っていれば、嘘や誇張を見抜いて、事例の選択から排除できる可能性があります。取引事例比較法による鑑定評価の信頼性を高めるためには、やはり実際に当事者の目を見て、生の声を聞き取り、自分で質問を投げかけて得られた情報が重要となるのです。


3.・比準価格の決定

適切な不動産価格を導くために「比準作業」を行い、不動産の比準価格を算出していきます。
比準作業をするために必要となる要素は以下の5つです。

・取引事例の価格
取引事例は、原則として隣接地域または同一需給圏内の類似地域にあるものから選択します。例えば、東京都新宿区の物件を売却する場合、同じ新宿区内の取引事例が比較対象となります。新宿区内に適切な物件がないときは、需要が類似する池袋や渋谷などから探すことになります。

・事情補正
不動産は、何らかの事情によって高額もしくは安価に取引きされることがあります。不動産取引は素人が行うことが多いため、相場に関する知識がなく、知らず知らずのうちに相場からかけ離れた価格での売買が行われることが珍しくないのです。例えば「不動産知識を持たない買主が相場以上の金額で購入した」「まとまったお金が必要だったため急いで売り払われた」など、特別な事情があったときは補正を行います。

・時点修正
売却された時期によっても取引価格は大きく異なります。「平均所得が上がった」「オリンピック需要がある」「土地利用の規制がきびしくなった」など、時間経過による経済的及び社会的変化があった場合は、評価額に修正を加えます。

・地域要因
同じ面積の土地であっても、「駅まで徒歩圏内」「隣に公園がある」「工場が近くてうるさい」など、立地が異なれば価格水準も変わります。このような地域的な要因も考慮することが大切です。

・個別的要因
隣接する地域であっても、「地盤が強い」「土地の形が悪い」「角地にある」など、不動産固有の特性も影響します。個別的要因で需要=価格が大きく変わることも少なくありません。

事後的な補正や修正は、不動産取引の実態に関する知識がなければできない作業です。それだけに、実際の相場に合わせようとして、都合のいい事例だけをピックアップする「恣意的選択に基づく鑑定」は避ける必要があります。そのような鑑定は、新たな社会的価値を何も生み出さない、非科学的で自己保身目的の作業でしかなく、不動産を売買しようとしている人にとって害にしかなりません。

<比準価格の算出例>
例えば、売却したい一棟マンションと似た物件が1億円で取引成立していた場合です。自己物件と詳しく比較してみたところ、以下のような違いがありました。

安価で取引きされていた +10%(事情補正)
好景気で需要が高まっている +20%(時点修正)
対象物件は公園が近い -15%(地域要因)
対象物件は日当たりが良い -5%(個別的要因)
これらを式にあてはめると、査定額は
1億円×1.1×1.2×0.85×0.95=1億659万円
ということになります。


事例がないと評価不可能?取引事例比較法が抱える課題

取引事例比較法は、具体的事例の集積から抽象的な鑑定評価を導き出す手法です。鑑定士の個人的な自己都合に基づく恣意的な鑑定に甘んじることなく、数学や統計学などの科学的手法や、評価ソフトなどのデジタルツールなども積極的に採り入れる必要があるでしょう。

また、現在はおもに中古住宅の評価方法として用いられていますが、取引事例がなければ適用できないという弱点があります。マンション一棟買いのように事例が少ない場合は、原価法や収益還元法を用いるなど、物件に応じて手法を変えることが重要です。今後、国土交通省をはじめとする関連団体が取り組んでいる中古住宅市場の整備や活性化が進むことで、取引事例比較法による鑑定も洗練されることが期待されています。


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