この不動産運営によって生じた収益を金融商品(証券)へと加工して、投資家に分配する「不動産証券化手法」により、企業は大きな発展を遂げました。万が一、大元の企業が倒産した場合でも、不動産の権利はSPCに移っているため安全です。投資する側にとっても、比較的リスクが少ない投資といえるでしょう。
SPCは、本来流動性が低い不動産を、流動性の高い金融商品として扱うことにより、不動産に対する投資を容易にしました。投資家は証券を売買するように、不動産ビジネスに参入できるようになったのです。こうした特定目的会社としてのSPCには、次のようなメリットがあるとされています。
<SPCのメリット>
・証券化対象となる不動産が、「オリジネーター」(後述)などの不動産関係者の固有資産と混同されないようにする。
・証券化対象となる不動産の関係者が、証券化による運用が失敗したことによる倒産などのリスクを切り離すことができる。
・証券の種類を変更するリパッケージ(ほかの証券をSPCに保有させておき、そこから生じたキャッシュフローを、他種類の証券に転換して再発行を行うこと)を活用できる。
・海外に設立した場合(オフショアSPC)、日本ではなく設立国の法制度を利用できる。
しかし、SPCにはデメリットも存在します。不動産を証券化するということは、不動産の価値以外にも、金融市場の動向、証券市場の動向など、さまざまな影響を受けやすいことを意味します。また、不動産はSPCが所有するものであり、投資家が所有できるわけではありません。いわゆる不動産投資と同じく、投資対象は土地や建物などの不動産ですが、その本質は大きく異なるわけです。
オリジネーターとは、不動産を証券化(金融商品化)するにあたって、SPCに不動産を譲渡する元来の所有者(法人)のことをいいます。では、なぜオリジネーターは、SPCに不動産を譲渡するのでしょうか。前述したように、不動産管理を専門家に委託する目的もありますが、不動産管理であればSPC以外にも請け負う企業はいくらでもあります。
オリジネーターにとっては、「不動産の証券化」ができることが大きな要因といえるでしょう。その証券を保有する投資家に向けて、不動産から得られる収益を分配する約束をすることによって、社会全体から多くの投資家を募り、投資の規模を拡大できるメリットがあるのです。
さらにいえば、証券化の際にSPCという別法人を設立することで、仮にオリジネーターが倒産したとしてもSPCは生き残り、発行済みの不動産証券も影響を受けません。つまり、投資家には迷惑がかかりませんから、投資への安心感が増すメリットもあるわけです。このようなリスク分散を、SPCによる「倒産隔離」といいます。
ただし、倒産隔離が法的に認められるためには、オリジネーターからSPCへの不動産の譲渡が、書類上などの形式的なものだけでなく、譲渡の意思が合致した上で会計上のオフバランス処理を終えているなど、真正な手続きでなされている必要があります。
SPCへの不動産譲渡が形式的なものだった場合、倒産したオリジネーターが所有している不動産に対し、SPCが担保権(残存した資産の中から優先弁済を受ける権利)を有する債権者の立場となります。この場合、オリジネーターの手元に資産が残っていないとSPCも経営危機に陥りますので、倒産隔離のメリットを享受できません。
日本国内ではなく、あえて海外にSPCを設立するとき、ほとんどの場合はその国の法体系の適用を求め、日本の法規制を免れることが目的となっています。日本よりも税率や規制が緩和された国を選択することで、以下のようなメリットを享受しようとしているのが一般的です。
<オフショアSPCのメリット>
・日本よりも、資本金や事後設立などの規制が緩和されるため、SPCの設立コストを抑えられる。
・投資家に向けては、不動産証券から生じる利子や配当を国外取得とすることで、外国税額控除枠を広げることができる。
・日本の法人税や源泉税課税の適用を回避できる。
特に、法人税がゼロか、諸外国と比較して著しく低い「タックスヘイブン」の国にオフショアSPCを設立する日本の大企業や資産家が増えています。しかし、このオフショアSPCは、2016年の「パナマ文書流出事件」以降、一般国民から課税負担の不公平を訴える声が噴出し、各国で大きな問題となっています。
また、設立費用を節約しようとして、資本金を著しく少額にすると、オフショアSPCの法人格が否認され、メリットを享受できなくなるおそれがあります。不動産投資会社を経営していて、SPC設立を視野に入れている方は、これらの問題を抱えていることも頭の片隅に入れておきましょう。