「PB」とは、「Pay Back Period(資金回収期間)」のことで、投下した自己資金 をおよそ何年で投資回収できるかを示した数字のことです。PBを求めるときは「投下した自己資金÷キャッシュフロー 」で投資回収計算をしますが、ここでいうキャッシュフローは、「家賃収入」から管理費や修繕費などの「諸経費」のほか、「借入金の元金と利子」の返済や、「各種税金」を支払って残った金額のことをいい、不動産投資の結果を表しています。当然、PBが短ければ短いほど、優秀で効率的な投資と判断されます。
アパートやマンションなどの建物の場合は年を経るごとに劣化が進みますので、売却時の価格は購入時より下がることが通常です。それでも、賃料収入が建物価格の下落を埋めて余りある水準に達していれば、不動産投資としては成功と呼べそうですが、実際はそれほど簡単ではありません。建物の維持管理費が賃料収入を押し下げ、その他の諸費用も少額の積み重ねを無視していると、結果的にPBは長くなり、投じた費用に見合わない物件となってしまいます。
賃貸用の物件を取得する際、物件の価額は自己資金や借入れを利用して支払うことになります。そのとき、土地や建物の値段ばかり追っていると、初期投資の全体像を見誤ることになりますので、以下の諸費用についても考慮するようにしてください。
これらの合計は不動産の取得額に比べれば小さいものですが、それでも数十万円は必要です。さらに、取得後も、次のような経費が発生します。
また、物件を売却する際も決して軽くない負担があります。その代表的なものは以下のとおりです。
これらの諸費用を「賃貸収入の総額+物件の売却代金」から差し引いて、なお黒字を確保できる場合に限り、その「不動産投資は成功を収めた」といえるでしょう。
初期投資が大きい物件や諸費用の負担が重い物件は、一般的にPBが長くなる傾向があります。また、入居者を安定して確保できない(空室が生じやすい)物件や、家賃を低額に抑えざるをえない事情がある物件もPBは長くなるでしょう。
なお、PBが長い物件は、期間中に不測の事態が起きて投資計画に影響を及ぼす可能性が高くなります。投下した資本を回収できる確実性が低下するため、ややリスクのある投資といえるでしょう。また、少ない資本金でも大きな取引きができるようにする「レバレッジ」をかけて、自己資金の割合を減らしている場合、PBの長い物件への投資は安全性が低くなる可能性もあります。ちなみに、一般的な物件のPBは5~10年ほどですが、これが10年以上になる場合は投資効率が悪く、逆に5年以下の物件は安全性を犠牲にする覚悟が必要です。
実際の不動産投資においてPBの「妥当な年数」を算出することは非常に難しくなっています。おおよその目安は5~10年ですが、投資スタイルによって目指すPBは異なる上、計算に使うキャッシュフローが税引き前後によって大きく変わるからです。
例1:5,000万円の物件に対し自己資金を600万円投入、年間90万円のキャッシュフローを得ている場合のPB
600万円÷90万円=6年8ヵ月
ここで使用するキャッシュフローは、「固定資産税」や「都市計画税 」などを差し引いた「税引き後のキャッシュフロー」を使うと、より実態に即した値を算出できます。しかし、購入前のシミュレーションでは税額の正確な計算が難しい場合も多く、税引き前のキャッシュフローを使用することになります。
例2:先ほどの5,000万円の物件の納税額が予測よりも10万円多くなった場合のPB
600万円÷80万円=7年6ヵ月
このように、実際の税額とシミュレーションの金額に乖離があるとPBは大きく変わりますので、その後の投資計画にも多大な影響を及ぼしてしまうのです。
「キャッシュフローを増やす」か「自己資金の割合を低くする」という2つの方法で、PBを短くすることは可能です。賃貸物件のキャッシュフローは「収入の増加」と「経費の削減」によって増やせます。
収入の増加は、入居率
を高めて家賃収入を上げることが第一ですが、広告看板や携帯電話のアンテナ、自動販売機などを設置して雑収入を確保することも考慮しましょう。経費にあたる「減価償却費」の増加や、融資の返済期間を長く設定して年間返済額を減らすことでも、キャッシュフローを増やすことができます。また、投資額に対するローンの割合を増やして自己資金の割合を低くすることでもPBを短くできますが、借入金が増えることは別のリスクにつながりますので、自己資金とローンのバランスには注意してください。
このように、PBの短縮にはいくつかの方法がありますが、投資家や物件の状況によって採れる手段は変化します。まずはPBの算出式とキャッシュフロー、自己資金割合による変化を把握することで、目標に合った投資を実現しましょう。なお、PBは非常に重要な指標ですが、それだけを見ていると投資判断を誤りますので、ほかの指標と併せて参照するようにしてください。